タグ・ホイヤー:カレラ キャリバー1887 41MM【腕時計名作選】

1964年に発売されて以来、オータビアと共に旧ホイヤーのフラッグシップとなったカレラ。

以来、現代のホイヤーの全てのプロダクトが特徴とする、モダニズムや革新性の原点として、50年もの歴史を刻んで来た古典的名作と呼ぶにふさわしい存在にまで成長を遂げました。

時代の移り変わりの中、一度は生産終了に追い込まれたカレラが再び市場を湧かせたのは、2004年のことでした。

あえてタキメータースケールを刻んだベゼルを与えながらも、カレラをカレラたらしめる歴史的意匠を積極的に取り入れたその新生カレラは、市場で大きな成功を収めました。

これがカレラを現代のタグ・ホイヤーのフラッグシップにまで返り咲くきっかけを作ったことに、疑う余地はないでしょう。

しかし、100以上のバリエーションを誇った旧ホイヤーが手掛けたカレラの全てが、ベゼルにスケールを持たないクロノグラフであったことを考えると、このキャリバー1887搭載機の登場を持って、本当の復活を遂げたということが出来るのではないでしょうか。

タグ・ホイヤー:キャリバー 1887

同社初となる腕時計型クロノグラフのインハウスムーブメント、キャリバー1887は、タグ・ホイヤーが日本のセイコーインスツルからムーブメント、Cal.6S系の意匠を購入したことが、その誕生のきっかけとなりました。

セイコー6S系は、ホイヤー創業者のエドワード・ホイヤーが発明し、特許を所得したとされるスイング・ピニオン(タグ・ホイヤーはこれを「振動ピニオン」と呼んでいます)を採用したコラムホイール式のクロノグラフであり、それまで主力として来たキャリバー16より薄型で、しかも既に10年以上に渡って熟成されていたという点において、ホイヤーにとってうってつけの下敷きであったに違いありません。

言うまでもなくタグ・ホイヤーにもクロノグラフの開発能力は充分にあり、事実今年のバーゼルでは完全自社設計のクロノグラフ、Cal.CH80を発表している訳ですが、ここであえて他社の設計を下敷きとしたのは、恐らくは時間短縮のためでしょう。

設計、試作、検証、そしてそれを量産ラインに乗せて行く作業は、どうしても年単位の時間を必要とするもので、タグ・ホイヤーはまず、堅実な方法を持ってインハウスムーブメントの第一歩を踏み出したといえるでしょう。

「振動ピニオン」に並ならぬ拘りを持つタグ・ホイヤーは、セイコー6Sのスイングピニオンに微調整機構を取り付け、スイス製の脱進機に改め、地板をはじめとする細部の意匠を改めて、このムーブメントを完成させました。

こうして生まれた1887は、従来の16よりも軽く、上質な操作感を特徴としており、ワンランク上のクロノグラフ・ムーブメントとして申し分の無いものとなりました。

しかしながら1960年代末、世界初の自動巻ムーブメントの開発において、セイコーに先を越されたかたちとなったはずのホイヤーが、記念すべきムーブメントの下敷きとして、あえてセイコーを選んだことに、痛く感慨深いものを感じたのは筆者だけでしょうか?

カレラ・キャリバー1887は、その登場後も幾度かのマイナーチェンジを受けながら進化を続け、タグ・ホイヤーを代表する機種のひとつとして、常に高い人気を維持しています。