専門化にはない斬新な発想の誕生

時計師でもない、デザイナーでもないリシャール・ミル。だからこそ、彼の目には「専門家」に見えないものが映る。

例えば、「RM002」。これは文字盤にトルクインジケーターを設けて、ゼンマイのトルクを可視化したものだ。「時計にパワーリザーブ表示は不必要。むしろ精度に関わる(ゼンマイの)トルクを表示すべき」(ミル氏)とは、「専門家」でない彼ならではの視点だろう。

また、「RM009」は、ケースに新素材アルシックを採用。世界でもっとも軽いトゥールビヨンを実現した。彼のこだわりはさらに進化する。

最新作の「RM012」ではムーブメントの地板と受け板を廃し、チューブ状のフレームだけでムーブメントを支えている。「専門家」にはない数々の斬新な発想は、リシャール・ミルの面目躍如といったところだろう。

本当の愛好家に向けた正統派の時計づくり
ミル氏がスポンサードする、F1レーサーのフェリペ・マッサ。
彼は時計の実地テストも行う。

本当の愛好家に向けた正統派の時計づくり

とはいえ、リシャール・ミルは決してエキセントリックな時計ではない。「腕時計のF1」というコンセプトと個性的な意匠を支えるのは、驚くほど生真面目なづくりである。

例えばエッジの立ったケース。仔細に見ると角が丁寧に落とされ、シャツの袖を傷めないようになっている。また、ムーブメントも、より立体的に見せるため数種類の仕上げが使いわけられる。リシャール・ミルが強調するように、その時計づくりは極めてまっとうであり、正統派の高級時計そのものなのだ。

「腕時計のF1」というコンセプトをもち、明快な意匠をもつリシャール・ミル。しかし、彼が実現したかったことは何にもまして、「本当の愛好家向け」の時計をつくることだった。

もしあなたがありきたりの時計に満足できなくなったら、リシャール・ミルを手にする価値はきっとある。「わかりやすい」コンセプトや意匠を超えた入念なつくり込みからは、きっと彼の時計づくりに対する情熱や、非凡な造詣を感じるに違いない。