狂騒の20年代が生んだ名作に宿るブランドの出自

撮影の前日、私は1つの役を京都の地で演じ終えた。貧しさ故に、とても苦しい思いをし、どうか息子だけでも幸せになってほしいと願う母親役だった。時は江戸。ボロボロの着物を着て、演じる年齢が幅広かったので老けメイクまで施した。シリアスなシーンが多かったので、京都にいる間、どことなく気分が落ち込んでいた。

ボロボロの着物とお別れをした次の日、メイクさんに綺麗にお化粧をして頂き、インポートの素敵なワンピースを着て、ヴァシュロン・コンスタンタンのヒストリーク・アメリカン1921を腕につけた瞬間、私はタイムスリップをしたかのような感覚に陥った。これが普通の、と言ったら語弊があるかもしれないが、普通の高価な時計だったら、ただ単に貧しさと華やかさの対比を感じただけかもしれない。